「地番」「住居表示」「住所」

ちょっと前に受けた相続登記のお話。

(お客様の承諾はいただいています。個人が特定できないように配慮しています。)

被相続人が書いた遺言書(自筆証書遺言)があるのでそれを使って登記してほしいとの依頼。

遺言書の内容を拝見すると、「お、これ一筋縄でいくかな?(←表現が古い)」とちょっと身構える内容。

万が一その遺言書で登記できなくても、相続人の関係が良好で遺産分割協議書の作成も可能な事案だったのですが

「病気が大変な中、一生懸命書いたようなので、できれば遺言書を使ってあげたいです」との意向をいただき、じゃあ何とかしてみますか、と思った次第。

その遺言書の何が問題だったのか?

不動産の記載が問題でした。

土地も建物も、所在を「〇丁目〇番〇号」と記載していました。

建物は複数の土地にまたがって建てられていたのですが、そのことには触れておらず、土地の面積は複数の土地の合計が書かれていました。

ご自宅だったので、こう書いておけば間違いなくわかるだろう、とお思いになって書かれたことと思います。

ところが、これでは「該当する不動産を特定した」ことにはならないのです。

遺言書は、書いた方が亡くなってから使うものであるため、実際使うときには「ご本人の意思確認」は不可能です。

そのため、記載内容には厳格性が求められます。民法によって、遺言の記載の仕方や内容についていくつも成立要件が決められているのはそのためです。

どう書けばよかったのか?

不動産は、登記簿に記載されている事項を書くことによって特定されます。

土地であれば、「所在」「地番」「地目」「地積」。

建物であれば、「所在」「家屋番号」「種類」「構造」「床面積」。

司法書士になってから「あ、そういう概念(分類)があるんだ」と初めて知ったことがいくつもありますが、不動産を特定する表現もその一つ。

普通に生活しているときには、区別できなくても特に困ることもありませんし、そもそも区別が必要なことを知らない方が多いと思いますが、以下の用語を混同して記載するとその不動産を特定できていないと判断される場合があります。

  • 「地番」・・・土地1筆ごとに割り当てられている番号。「〇〇番地」という土地を分筆すると「○○番地1」「○○番地2」などと分かれた土地にも付番される。
  • 「住所」・・・住んでいる場所。基本は建物が建っている土地(複数の土地にまたがっている場合はそのうちの一つ)の地番に基づく所在を「住所」とすることが多いが、合分筆などによりわかりにくくなってくることがあるため、「住居表示」として区画に合わせてわかりやすく付番しなおすことがある。
  • 「住居表示」・・・昭和37年(1962年)に施行された「住居表示に関する法律(住居表示法)」に基づいて「〇番〇号」などと付番された住居の表示。住居表示を実施するかどうかは市町村が決める。

土地も建物も、一つずつ、登記簿記載のとおり「地番」や「家屋番号」によって詳細を記載しないと、その不動産を特定したことにはならないのです。

最高裁まで争うこともある

登記申請の前に、法務局に照会をかけました。この遺言書で登記できると考えますが、いかがか?の根拠として私が引っ張ったのは「最高裁判例平成13年3月13日」です。

判旨にもありますが、「不動産」として「住所」のみが記載されていたとしても、建物だけでなく、その所在場所の土地も含まれると判断できる場合がある(周辺事情を考慮した上で)、というケースです。

たかが住所、されど住所、で、最高裁まで争いがもつれこむこともあるのです。

私がした照会の結果は、被相続人の名寄帳と、該当場所の公図、建物図面をつけて申請せよ、とのことになり、その遺言書を使って登記は無事に通りました。

ただし、今回のケースでも、少しでも条件や状況が変われば、登記が通らなかった可能性もあります。