旧樺太の戸籍

相続の手続きを受任すると、まずは亡くなられた方の死亡戸籍を取得し、

そこからさかのぼりながら出生時の戸籍までを集めるところからスタートします。

先日、その過程で、久々に「樺太〇〇郡〇〇町から転籍」という記述に出くわしました。

樺太(現サハリン)は行ったことはありませんが、北海道出身なので地理的に親近感があるのと、

引き寄せのようなものもあるのか、北海道方面に戸籍のある人の依頼を受けることがなぜか多いので

樺太に本籍があった人の戸籍が必要となるのも初めてではありませんでした。

樺太の戸籍は取れるの?

江戸時代に「日本の離島」であると日本側が認識して以降、ロシアとの支配権の争いが度々起こり、

日露戦争後に北緯50度以南を日本の領土としてから太平洋戦争時にソ連が「侵入」してくるまでの

約40年間、日本人が入植していた樺太。

今のウクライナ情勢に通じるものもあるように思いますが、さておき。

その入植期に、樺太に本籍を置いていた日本人が一定数いるんですね。

戸籍等を取得する際は、その時々に本籍を置いていた自治体に交付申請しますが、

樺太は日本の領土ではないため、外務省が当時の戸籍簿を保管しています。

ただし、保管しているのは6つの村の戸籍簿のみとなっています。

これらの戸籍簿等の原本は終戦時に現地から持帰られ、その後に樺太庁残務整理事務所やその業務を継承した外務省外地整理室に持込まれたものであり、戸籍法上の戸籍簿ではなく、行政文書のひとつとして外務省において事実上保管されているものです。これらの樺太戸籍簿等については、便宜的に簡易な手続を設けてその開示申請を受付ていますが、これは樺太に関する戸籍事務を行っているわけではなく、保管する行政文書を求めに応じて開示するものです。保管していない場合にはその旨を回答していますが、これは外務省においては保管されていないことを回答するものであり、当該戸籍の滅失等を証明するものではありません。

外務省ホームページ「旧樺太の戸籍に関する証明」より

つまり、終戦時に持ち帰ることのできた戸籍簿だけが外務省に保管されており、

6村についても保管しているものを開示するだけであって、

市区町村がするような「戸籍の証明」として発行するのではない、と言っています。

何年か前、6村以外の樺太の村に本籍があった方の相続手続きをしていた際に外務省の該当部署に

問い合わせたところ、6村以外の戸籍の保管の有無について照会をしても、保管していない旨の

「通知」しか出せないとのことでした。

その通知内容は上記の外務省ホームページ掲載の内容と同レベルのもので、

「証明」ではないと言われました。

取得できないのであれば、どうする?

戦争による消失や廃棄処分などで、市区町村で該当戸籍(除籍)を取得することができなかった場合、従来は相続登記の際には

 ①除籍等の謄本を交付することができない旨の市区町村長が作成した証明書

 ②他に相続人はいない旨の相続人全員の申述書(相続人全員の押印と印鑑証明書添付が必要)

の添付が必要でした。

その後、申請人の負担軽減のため手続きが緩和され(平成28年3月11日法務省民二第219号)、②の添付は不要となりました。

しかし。

前述のように、樺太戸籍に関する「証明書」の交付はそもそもどこもしてくれないため、上記の負担軽減措置の恩恵は受けられないのですね。

ではどうするか?

今回依頼を受けた件で、戸籍を提出する管轄法務局に問い合わせたところ、

「(登記に関する)質疑応答では、樺太からの転籍が『就籍許可により新戸籍編成』との文言があるものであれば、(樺太以前の戸籍がなくても)受理して差し支えないとなってます」とのこと。

質疑応答の出典元は探しきれなかったのですが、それ以前に、私の手元にある戸籍には、「就籍許可により新戸籍編成」で樺太から転籍になったという記載はどこにもありません。

その代わり、その戸籍を出してくれた自治体の担当者がご丁寧に、「従前戸籍は樺太です」という付箋と、「従前戸籍の本籍地である樺太は、外務省の管轄です」というメモを戸籍に貼って、交付してくれていました。

その旨、法務局の担当者に伝えると、「じゃあ、その付箋とメモをそのままつけて提出してください」と。

樺太にいたのは被相続人が8歳の時までだったのもあってか、樺太以前の戸籍を揃えられなくても結果受理され、今回は相続登記ではなくその前段ともいえる法定相続情報一覧図だったのですが、無事交付されました。

相続登記の義務化

登記申請の際、書類に不備があったりすると、場合によっては「却下」という重い扱いになることもあるため、司法書士は細心の注意を払って申請の準備をします。

でも却下や不受理というのは情け容赦なくされるものではなくて、間違った方向性でない案件は先例や質疑応答などに該当する記載がなくても、基本的には通してくれようとして進めてもらえる感触が今回もありました。

令和6年4月に施行される相続登記の義務化に向けて、登記を促進したい姿勢も根底にはあるのかもしれません。

樺太戸籍のような扱いが少々難しい部分がある場合は、相続登記や金融機関の手続きの前に時間的余裕があれば、先に法定相続情報一覧図の交付申請をしておくのがおすすめです。

一番厳しい(と思われる)法務局の戸籍チェックを受けた証なので、金融機関での解約手続などで、必要以上に時間がかかることが避けられると思います。

法定相続情報一覧図や相続登記のご依頼は、ぜひ司法書士に。