ニュースから、相続について考える

先日、7月に亡くなった俳優の方の四十九日を迎えたというニュースを目にしました。

彼の死を知った時の驚きは、まだ鮮明に覚えています。ちょうどテレビをつけていたらニュース速報の音がして、当時はコロナウィルスの新規感染者の人数がニュース速報で連日流れていたので、またそれか、と思ったら、彼が死亡しているのが発見された、とのテロップ。

私はテレビドラマなどはほとんど見ないので、彼のことはNHKの情報番組で時々見かけるくらいでファンでも何でもなかったのですが、あまりの若さと、端正な顔立ちの奥にどれだけの葛藤を抱えていたのだろうという勝手な想像が強く心に残り、それから何日か彼の想いについて考えてしまうくらいに衝撃的なニュースでした。

さて。ショックな気持ちが落ち着いて、少し距離を置いてニュースが見られるようになると、彼の相続はどうなるんだろうと思うようになりました。司法書士の哀しい性分かもしれません…。

彼の素性は詳しく知りませんし(仮に知っていたとしたらこのような場所にはそもそも書けないですね)、ただそこから着想を得た、というくらいのことですが、未婚の人が亡くなったときの相続について考察してみたいと思います。

相続人は誰?

結婚をしておらず、子供もいない人が亡くなった場合、相続人になるのは誰でしょう。

(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)

民法第889条 次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。

 一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。

 二 被相続人の兄弟姉妹

(第2項省略)

「第887条の規定」とは、亡くなった方に子供があるときの規定です。配偶者も子供もいない場合は、亡くなった方の親が相続人となります。両親ともすでに亡くなっていて祖父母が健在の場合は、祖父母が相続人となります。祖父母や曾祖父母も亡くなっていれば、兄弟姉妹が相続人となります。

では、このように法律で定められた相続人に自分の財産を相続してほしくないときは、どうすればいいのでしょうか。

相続人は選べる?

まだ結婚もしておらず、子供もいない人を仮に「Aさん」としましょう。Aさんは両親とも健在だとします。Aさんが自分の財産を親には相続してほしくないから対策をしておきたいときはどういう手段があるのでしょうか。冒頭の俳優さんのように自死でなくても、災害や事故、病気などで親よりも子供の方が先に亡くなるケースはあります。

まず、「籍を抜く(戸籍を別にする)」のはどうでしょうか。結婚したり離婚したりする際の戸籍の出入りと混同して理解されている方がいるようですが、結論から言うと、戸籍を別にしても、親子関係が切れるわけではありません。変わらずAさんの相続人は両親だけです。両親が健在である以上、他に相続人となる人はいません。

では「遺言書を作る」のはどうでしょうか。これは解決策の一つになります。公正証書遺言など詳細についてはここでは割愛しますが、「自分の全財産を兄○○に遺贈する。」「△△に寄付する。」などとしておくのです。ただし次のように「遺留分」については避けて通れません。

(遺留分の帰属及びその割合)

民法第1042条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。

 一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一

 二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一

2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第900条及び第901条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

遺言書の内容にかかわらず、両親にはそれぞれ、Aさんの遺産の6分の1ずつを請求する権利がある、ということです。

この遺留分すら渡したくない、という場合はもう手段はないのでしょうか。

(推定相続人の廃除)

民法第892条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

これが「最終手段」ではないでしょうか。

ただし、廃除は①被相続人が生前に家庭裁判所に申立て②遺言書に記載しておき死後に遺言執行者が家庭裁判所に申立て、のみが認められています。申立てがされても、遺留分は相続人の生活保障の一面もあることから、認められることはほとんどないのが実情のようです。

ということで、Aさんにできる最大限のことは、遺言書を作っておく、ということになります。

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